大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成8年(行コ)29号 判決 1997年4月09日

三重県鳥羽市浦村町字大吉一七三一番地六八

控訴人

財団法人東海水産科学協会

右代表者理事

水谷皓一

右訴訟代理人弁護士

樋上陽

西村秀樹

三重県伊勢市岩渕一丁目二番二四号

被控訴人

伊勢税務署長 海野晴方

右指定代理人

西森政一

桜木修

前田憲秀

井口眞治

木村晃英

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成五年五月二八日付でした、控訴人の平成元年分の消費税の更正(但し、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち課税標準額を一一一九万一〇〇〇円として計算した額を超える部分を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件は、原判決別紙物件目録(土地)記載の土地及び同目録(建物)記載一の建物(以下「本件土地建物」という。)の譲渡に係る消費税の更正処分を受けた控訴人が、右不動産の譲渡時期は消費税法適用開始日(平成元年四月一日)より前になされた本件売買契約締結の日(平成元年三月二九日)であり、その譲渡対価額を消費税の課税標準額に含めた被控訴人の右更正処分は違法であると主張して、被控訴人に対し、その取消しを求めた事案である。

以上のほか、争いのない事実、争点、争点に対する当事者の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  控訴人の主張

本件土地建物の売買に関する消費税の納税義務の成立時期である国税通則法一五条二項七号(平成三年五月法律第六九号による改正前の六号)が規定する「課税資産の譲渡等をした時」は、本件売買契約の効力発生日である平成三年二九日である。

売主である控訴人は、買主である岡三證券株式会社(以下「岡三證券」という。)から右契約締結日に、手付金として売買代金の二割に相当する一億六〇〇〇万円を授受していて、所有権移転の仮登記をなすことまで合意しているのであり、売買当事者間においては、右契約日を以って譲渡の時期とする合意があった。

控訴人は、国税通則法の前記条項を素直に解釈して、本件土地建物の譲渡時期を本件売買契約締結の日とすることによって、同法に定める納税義務は無いものと判断したものであって、被控訴人主張のように、会計処理が平成元年四月一日以降に為されていることを理由に、右日時以降である本件土地建物の引渡の日を、課税資産の譲渡の時期であるとすることは、納税義務者たる国民の信頼を裏切るものであり、認められない。

二  被控訴人の主張

控訴人の右主張はいずれも争う。

第三  証拠関係は、原審における証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、本件土地建物の所有権は、当事者の合意に基づき、平成元年七月一七日ころ控訴人から岡三證券に移転したものであり、消費税法の適用に関しても、右の時期をもって控訴人は本件土地建物を譲渡したものと認めるのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

二  控訴人は、売主である控訴人と、買主である岡三證券は、売買契約締結日である平成三年三月二九日を以って本件土地建物の所有権譲渡の時期とする旨合意したと主張し、乙第一ないし七号証、証人松山常泰の証言によると、控訴人と岡三證券は、本件売買契約締結日に、手付金として本件売買代金八億円の二割に相当する一億六〇〇〇万円を授受し、所有権移転の仮登記をなすことを合意し、右合意に基づき、本件土地建物に平成元年四年四日付で所有権移転請求権仮登記を行った事実を認めることができる。

しかし、前記当事者間に争いのない事実、及び乙第一ないし一一号証、証人石田好美、同松山常泰、同石原義剛の各証言、並びに弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

1  本件売買契約書五条では、売買不動産の所有権は買主が売買代金の金額を売主に支払ったときに買主に移転するものとする旨、同六条では、売買不動産の引渡しは前条の所有権移転と同時に行うものとする旨規定している(乙第七号証)。

2  本件土地建物の平成元年四月四日付仮登記は、同年三月二九日売買予約を原因としている。

3  控訴人は、本件売買契約締結後の平成元年五月二八日まで、本件建物での収益事業である国民宿舎あらみ荘の宿泊収入及び飲食収入を計上していて、右同日付で被控訴人に対し収益事業廃止届出を行った。

4  岡三證券は平成元年七月一七日控訴人に本件売買契約の残代金六億一〇〇〇万円を支払い、右同日控訴人は、仲介業者の立会いの下に、本件土地建物の権利証書、本件建物の鍵及び本件建物の設備備品の備付け保管状況を記載したあらみ荘備品一覧表の受渡しをもって、岡三證券に対する本件土地建物の引渡しを行った。岡三證券はその後の同月二〇日付で、本件土地建物につき所有権移転登記を受けた。

5  控訴人の平成二年五月二七日付の平成元年度事業報告書(自平成元年四月一日至平成二年三月三一日)には、平成元年七月三一日をもって岡三證券へ基本財産であった本件土地建物の売却が完了した旨の記載がなされている(乙第九号証)。

6  控訴人の第三七期決算報告書(平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで)の収支計算書には、基本財産収入のうち固定資産売却収入として本件土地の売却収入六億五二九七万九〇〇〇円及び本件建物の売却収入一億四七〇二万一〇〇〇円が計上されている(乙第九号証)。

三  以上の事実によると、控訴人と岡三證券が、売買契約日である平成三年三月二九日をもって、本件土地建物の譲渡をした時とする旨の合意をしたとまでは認められないだけでなく、本件土地建物の所有権は、控訴人から岡三證券に、その売買代金支払の状況、所有権移転登記の移転時期、使用収益の実体からみて、契約締結日である平成元年三月二九日ではなく、同年七月一七日に確定的に移転したと認めるのが相当である。

そうすると、消費税法の適用に関しても、平成元年七月一七日をもって控訴人は本件土地建物を「譲渡した時」と認めるのが相当であるから、右譲渡が控訴人の平成元年分の消費税の課税対象となるとした被控訴人の本件更正処分に控訴人主張の違法はない。

第五結論

よって、控訴人の被控訴人に対する本件課税処分の取消請求は理由がないから、これを棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 水谷正俊 裁判官 矢澤敬幸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例